東京都杉並区で1歳から就学前までの発達になんらかの躓きを持つお子さんととその家族を対象とした支援事業を行う「(公益社団法人)家庭生活研究会 心理・発達相談室こぐま」の室長を務めるのが、田中公子さんだ。)
支援を行う事業者という立場を持つ田中さんは、「普通に死ぬ〜いのちの自立〜」を観て、様々な気付きがあったという。
映画の内容に励まされ、気付きも与えられた
・・・・・本作をご覧になった感想は?
「重い障がいを持ち、医療的ケアを必要とする人とその家族を懸命に支えようと奮闘するグループホームのスタッフの姿を見て、とても励まされました。運営側が安定した道を選びがちなのは私自身わからなくもないのですが、『事業者として本来の理念に立ち戻って考え直してみよう』という議論が本気で真剣に繰り広げられる場面でハッとさせられました。。自らの生き方を問われているようで、『もう少し頑張ってみよう』と背中を押されたような感じを抱きましたね」
・・・・・「背中を押された」というのは、具体的にどういうことですか。
「私が働く児童発達支援事業所でも、今まさに大きな問題を抱えています。この映画は、私自身、その問題に対し『もう諦めよう。』と逃げ道を探しかけていた時期とも重なり、『本気でやれることはやったのか?』という気付きを与えてくれました。問題は違いますが、障がいのある人や家族との出会いはもちろん、事業者同士の様々な出会いも困難な状況を乗り越えていく勇気と希望を生み、周囲の人々を動かすうねりになる。映画の中で描かれるその様子に胸を打たれました」
「普通の人間関係」で生まれる「感じる力」
・・・・・本作は、重い障がいを持つ人が年を重ね、支える家族が病に倒れ、苦難に直面する有様が主題となっています。
「彼らを懸命にサポートするグループホームのスタッフを含め、この映画に登場する人々皆が、過酷な状況に置かれても共に支え合い、『普通に生きる』ことを守り抜こうとする姿に心を揺さぶられました。」
・・・・・特に心に残った場面はありますか?
「娘の葬儀に多くの人が駆けつけてくれたことに感動した父親が『障がいを持っていても、笑顔ひとつでこれだけ多くの人を動かせるんだ』と語る場面がありますよね。障がいの有無に関わらず、支援する人、される人の関係性でもなく、人と人との普通の関係の中で自然と湧き起こる『感じる力』が、相互に呼応して心を震わされた時に大きな力が生まれるのだと胸が熱くなりました」
相互の「感じる力」が大きな変化の源に
・・・・・相互の「感じる力」が変化をもたらす?
「そうですね。重い障害を持つ人の自立ってどういうことなのか、それはその人、その人が持つ『感じる力』の中に有るのではないか、そして人と人の相互の『感じる力』が大きな力となり、世の中に変化をもたらせていくのだと思います。」
・・・・・田中さんご自身にとっての「感じる力」とは。
「私自身、若い頃より経験を積んだ分だけ今の方が『感じる力』が豊かになっているような気がします。映画の中で、かつては『子どもが亡くなるのを見届けてから死にたい』と話していた家族が年を取った親が先に死ぬことを普通のこととして受け入れていく話が出てきますよね」
・・・・・年を取り経験を重ねて、考えが変わったということでしょうか。
「その家族が過去にどれほど眠れぬ夜を過ごし、つらく悲しい思いをしたのだろうと思うと胸がいっぱいになります。しかし一方で、重い障害のある子であっても、子育ての中にある普通の喜びや楽しみもたくさん経験したからこその変化だと思うんです。そういう家族の姿に、私は子供を育てた同じ親としてちょっと嬉しく『お互い頑張ったね。』とエールを送りたいのです。」
(インタビュアー:花田優子)