2002年春、横浜市栄区にある障害者のサポートセンター径で細井道子さんと初めてお会いした時、顎で操作する電動車椅子に乗っている細井さんが一人で暮らしていると聞いて、私たちは大変驚きました。一体どうやって一人暮らしができるのかと不思議に思いました。センターの職員でさえ、細井さんの暮らしぶりを知る人はほとんどなく、具体的な生活を想像することが出来ませんでした。
ならば暮らしぶりを見せてあげるという細井さんに誘われて、私たちはご自宅にお邪魔させていただきました。それが撮影の初日となりました。
細井さんは、HTLV 1関連脊髄症(略称HAM)という難病を抱え、病気の進行にともなって首から下が自力ではほとんど動かせなくなりました。従って食事から排泄に至るまで全てに人の手助けが必要でした。
帰宅するとヘルパーさんが家の中で細井さんを待っていました。細井さんは私たちの目の前でジャケットを脱がせてもらい、車椅子からベッドにヘルパーさんが抱きかかえる形で移動し、タバコに火をつけてもらって、一服しました。
同居する家族がいない細井さんの日常生活は、ヘルパーさんが細井さんの口頭による指示に従って活動されることで成り立っていました。しかし、24時間、必ず誰かが滞在しているわけではなく、一日の大半は一人きりで過ごしていました。その様子を見ていて、細井さんの生活を記録することは、障害者本人の自立生活のための支援、制度、さらには受け入れる地域社会のあり方などを検討する際により具体的で実用的なイメージを持つための貴重な情報を提供することとなるのではないかと思い、撮影をさせていただくことをお願いいたしました。
細井さんは、ご自身の一人暮らしを公開することが障害者の自立に少しでも役立つならばと、快諾してくださいました。
こうして2002年4月から細井さんの実際の生活ぶりを記録することを開始して、今回一本のビデオドキュメンタリー「晴れた日ばかりじゃないけれど〜地域で生きる、一人で暮らす〜」としてまとめました。
この「晴れた日ばかりじゃないけれど〜地域で生きる、ひとりで暮らす〜」は、障害者の自立した生活を支えるために必要な支援、環境、条件等について、また、障害者本人のセルフマネージメント、エンパワーメントについて、さらには介護者と障害者の間に持ち上がる可能性のある軋轢などを様々な角度から考察していただくための視点を提供できると考えています。
また、少子化に伴う老々介護や、一人暮らしの老人の増加など、今後想定される様々な問題についても、細井さんの生活ぶりや発言から多くの示唆を得ることができると考えています。