●「OSWふくしの会」設立当初から会を受け入れ育てて下さった、訪問の家“朋”。演奏に伺うたびに元気を頂いて参りました。その中心で、まわり中に元気を下さる太陽の様な日浦先生。施設も拡大し充実した地域福祉への日々で超御多忙の先生に、日頃感じておられる「これからの福祉」についてメッセージを頂きました。ご協力ありがとうございました。
21世紀に大切にしたいもの 〜OWSと朋〜 理事長 日浦美智江
朋では月に3回、土曜日の午後、施設内のホールを使ってミニ音楽会を行っています。朋に通うメンバーの障害は大変重く、車椅子やストレッチャーに乗り、チューブ栄養の人や気管切開の人もいます。世界には様々な楽器があり、様々な音色やメロディー、リズムがあります。そんな聴覚や視覚を通しての快い時間を皆に体験してほしいと願いましたが、吸入器をもって皆を音楽会に連れて行くのはためらわれました。そしてある日、ホールを音楽会場にすればいいのだと気が付いたのです。思い切って多くの人達に声を掛けさせていただきました。フルート、マリンバ、ピアノ、ヴァイオリン、マンドリンの演奏家、声楽家の皆さん。シャンソン、カンツォーネ、オペラ等々。プロの方、アマチュアの方、学生の方。そして、多くの方々が自薦他薦でミニ音楽会に参加して下さったのでした。
オペラワークショップの皆さんとの出会いは8年前にさかのぼります。知人のお嬢さんがメンバーにいらしたことがきっかけで訪ねて下さいました。カラフルな衣装を着て美しい声で華やかに楽しい歌声を聴かせて下さる皆さんの明るい雰囲気は朋のメンバーを魅了しました。リズムに合わせて首を振る人、声を出す人、足をピョコピョコ動かす人、手を振る人、皆の楽しそうな様子が初めての出会いを歓迎する挨拶でした。以来、毎年OWSふくしの会の皆さんは本格的な歌声だけでなく、楽しい楽器演奏も交え、朋のみんな用にとプログラムを組んできて下さいます。
音楽には言葉はいらないとよく言われます。又音楽は頭で聴くものではない、心で聴くものだとも言われます。朋のみんなは音楽が大好きです。それも生演奏が大好きなのです。開所以来16年、朋のミニ音楽会は土曜プログラム(通称「土プロ」)としてすっかり定着しました。朋のみんなは拍手をすることも、お礼の言葉を述べることもできません。それにもかかわらず毎年「演奏させて下さい」というお申し出をいただくのです。そんな方は異口同音に「みんな音楽を楽しんでいることが体全体でつたわってくる。一瞬みんなと音楽を通じて心が一つになったという瞬間がある。その時の喜びは何ものにも代えがたい。」とおっしゃいます。そんな言葉を聞きながら彼等が決して音楽をただ聴いているだけのパッシブな存在ではなく、演奏者に球を投げ返しているアクティブな人達だと感じるのです。こんな心の交流、目に見えないキャッチボールが、通称「土プロ」を長続きさせているのだと思います。
20世紀は科学と戦争の世紀。人間には「知」と「情」があります。出来る事はよい事だと「知」は「情」より上位にあるものだと進んできた20世紀が、人間を大切にした素晴らしい世紀と思っている人がどれだけいるでしょうか。朋の人達は心で生きています。「情」の世界の人達です。この人達が音楽を媒体に見せる人と人との温かい心の交流の場面を見ながら、この世界こそ今私たちが取り戻さないといけないものだと感じています。そして21世紀を本当の意味での人間の世紀にしなくてはと思うのです。
音楽は心を繋ぎます。人と人を繋ぎます。朋の「土プロ」が繋いだ人と人の関係と心地好い時間の共有は朋の大きな財産です。これからもOWSとのお付き合いが末永く続く事を、そして朋も又OWSの財産であってほしいと願っています。
製作:「朋の時間」製作委員会
配給:「朋の時間」上映委員会
(2003年度公開作品/ビデオ・長編ドキュメンタリー/カラー/123分)
「朋の時間〜母たちの季節〜」の 作品内容