依田さんってヒステリーを起こしたことなどないのだろうなあと思うほど、依田さんの怒った顔、不愉快な顔を見たことがありません。いつも穏やかでそしてにこにこで。
先生のミスも「そんなことでピリピリしないで。先生にお任せしているのですから」と逆に励ましてくれます。
そして母親グループのバザーの時は、何かと細かいところに気を配って、足りないもの、必要なものを揃えたり、目立たないところで頑張ってくれます。やっぱり、女の子三人の母親だなぁと感心します。

わが家のゲラ子
この世で一番すばらしいものはほほえみ・・・・・。特に子どもの笑顔は天下一品。どんなに心が疲れていても、たちまちいやされてしまいます。
さて、わが家のゲラ子をご紹介します。
美津子、ミツコはもう八歳。小学校二年生になりました。重度の障害をもっているので、自分の思っていること、してほしいことがあまり周囲の人たちに通じません。それが歯がゆく、よくじれますが、それにしてはがんばっています。
ミツコの笑い声と泣き声、そして話し声?・・・・・。みんな大きいのです。特に笑い声が抜群で、近所じゅうにひびきます。
過去は忘れて、未来へゴー!
最近のミツコはスローテンポながら着実に進歩してきています。あらゆるところにつかまり、少しくらい高いところでも、ひょいとひざ立ちして、手当たりしだいなんでもとってしまいます。
「ドウ?スゴイデショ」と、いわんばかりの得意満面。お姉ちゃんたちは、こわされては困るものをかたずけたりかくしたりで、大忙しの嬉しい悲鳴。さて、お次はなにがとびだすか、楽しみです。
その上、ミツコは得意満々
特に、学校へ行きたくて、通級の日でなくても、バギーの散歩はスクールバスの停留場付近を行ったり来たり・・・・・。その場所を離れると、ごきげんすこぶる斜め、きまって帰り道は大泣きです。
「あああ、お母さんは、もっといろいろな道を通ったり、買い物なんかしたいのに、つまらない・・・・・。」
「それにしても、お姉さんたち、ミツコくらい学校を好きになってくれたらなあ。」
とにかく楽天的な私。子供たちは健康でさえあればと、とっくに教育ママぶりを廃業したつもりですが、それを言い訳にして、やや怠け癖がついているのかも・・・・。
もしかして、ミツコの大泣きは、そんなお母さんにはっぱをかけているのです。
「ダメヨ!ソンナコトジャ・・・・・。」
これも学校へ通っていればこそ。ミツコの成長は、集団での子供どうしのふれあいの中で、テンポが早まってくるようです。
ありがとう、元気なお友だち
普通学級のお友だちが、大人のような理屈はぬき、無邪気に分教室に遊びにきてくれることも分教室の子どもたちはどんなに楽しいことか・・・・。時にはミツコたちのことはそっちのけ、幼稚園にあるような楽しい遊具に夢中になっていますが、それでもいいのです。お互いの間から、とっくに垣根がはずされているのですから・・・・。
そんな友だちに抱かれると、先生だと緊張して体を固くする子が、リラックスしてしまうのですから、ほんとに不思議です。
そして、このような健常児と障害児とが共存する学校が、もっとたくさんできればよいと思うのです。お互いに身近にいて、ごく自然にふれあうことがどんなにすばらしいことか・・・・・。
どうか、中村小学校の元気な友だちも、少しでも思いやりのある、温かい心をもちつづけて、大きくなってほしい。そして、たくさんの人たちに、その心をつたえてほしいと思います。
弱い立場の人たちに、愛の手をというよりも、同じ人間、同じ仲間として、身近にあること、その場で出来ることから、手をさしのべてほしいと思うのです。
そういえば、今年は国際障害者年です。そのマークも、障害者から健常者へと、手をさしのべているのだそうです。
でも、甘えてばかりではいけません。自分で出来ることを、大いにやらなくては・・・・。そして、ミツコをふくめて私たちも、社会に参加できるよう、大いに頑張らなくてはと、私自身への自戒をこめて思うのです。
もちろん、いつでもほほえみを絶やすことなく・・・・。
●昭和57年に発行された「わが子」より(部分)