映画 伝 承 -Transmission - 音楽担当 山中 茂


  魂の行為

山中 茂      

 私が彼と本格的に親しくなったのは、音楽を通してだったと思います。お互いに引き合うものが音楽以外にも多く介在していて、つまり非常に似た感性を共有していたようです。その頃、彼はラジオ放送局に勤めていました。番組でドキュメンタリーの仕事に取り組んでいて、そんなことから“自分が生きてきた証しを何かの形で残したい”という気持ちにさせたのでしょうか、「映画を作るよ」という言葉を彼の口から聞いたのは、まだお互い20歳前だったと思います。

 暴走族の少年・少女たちを通して若者たちの青春像を、あるいは彼自身、一人の暴走少年だった頃の熱い生きざまを焼きつけたような、ドキュメント映画“俺たちの生きた時間”は完成しました。しかし、技術面や金銭面での行き詰まり、ましてや全く初めて手にした16mmカメラというなかでの作業でしたから、信頼出来るものといえぱ身を焦がさんばかりの情熟だけだったようです。

 彼は、いつも物事を真っ直ぐに捕らえ、何かするときは納得が行くまで取り組む、逆びでさえ仕事になってしまうかのような感性の持ち主だったように思うのですが、映画を通して色んなことを身を以って勉強したようでした。

  すべてを白紙にもどすかのごとく、しばらくして彼は旅立ちました。

 何故アジアを選んだのか、今はわかるような気がしますが、とにかくしばらくして彼と会ったときには、新しいことがすでに始まっていました。

 そして、11年もの歳月を費やし、ほとんど彼一人のカによって仕上げられた映像作品“伝承”は完成しました。フィルム代、現像代、ロケーション現場までの旅費、そしてその間の生活費等、造園工事の庭師をしながら、あるいは現地物産品の輪入をしながら、失敗と成功を繰り返す中で彼は、彼の生命と引き替えに完成させたのでした。

 “伝承”・・・それは時を越えて語り継がれるもの。
 人間の文化、人類が減亡するその日まで、彼の生命をかけた魂の行為もまた、生き続けるものと私は信じています。

映画「伝承」音楽担当 山中 茂  



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